銀行預金者に巨額の負担を押し付けるという前代未聞の離れ業によってキプロス危機は何とか回避収束できる見込みになりました。
しかし、銀行預金の1/3以上が非居住者ロシアマネーといわれるキプロスにとって、むしろ本当の危機はこれからなのかも知れません。
キプロスは、ソ連崩壊直後から資金逃避先として急激にロシアマネーが流入し、それをてこに国際金融立国としての地位を獲得してきたという経緯があります。つまり、ロシアあってのキプロス。それだけに、今回の「高額預金者への多額の負担強制」は、キプロスにしてみればいわば踏み絵のようなものだったでしょう。


ただ結果として、キプロスは苦渋の選択とはいえ高額預金者の預金へ高額課税(強制徴収)という方針を決断しました。
これにより、キプロスからロシアマネーが流出するのは、ほぼ間違いありません。


さて、ロシアマネーはキプロスからどこへ向かうのでしょうか?


EU加盟国であるキプロスが、ロシアとヨーロッパを繋ぐ役割をしていたとすれば、代替国もEU加盟国であり、キプロスのように金融に力を入れているオフショア国であることが望ましいと考えられます。
特に、EUの金融商品市場指令 (MiFID: Markets in Financial Instruments Directive)に基づく単一パスポート制(あるEU加盟国でライセンスを取得すると他の域内国でも有効になる)を利用したビジネスを展開している場合は、同じビジネスモデルが適用される国に移転する可能性があります。
具体的には、ロシア資本が入っているキプロスのFXブローカーは拠点を移す可能性があると思われます。


マルタ


地中海のミニ国家、マルタ。EU加盟国であり、ユーロ通貨圏。公用語は英語。
FXDDがアメリカの規制を嫌って拠点をマルタに移したのと同じように、キプロスからマルタに拠点を移すFXブローカーが現れるかも知れません。


ルクセンブルク


EU圏の国際金融センターといえばルクセンブルク。プライベートバンクの中心地であり、世界的に名だたる銀行が集中しています。
ビジネスは関係なく資産保全目的でキプロスに資金を置いているロシアの富裕層はルクセンブルクのプライベートバンクに資金を移すかもしれません。


ラトビア


バルト三国の1つ、ラトビア。まだユーロ圏ではないもののEU加盟国。
ラトビアは歴史的にロシアとの結び付きが強く、ロシア語話者が非常に多いのが特徴。そのため、キプロスからロシアマネー逃避先として有力候補に上がっています。
ただ、ラトビアはユーロ圏への加盟申請を決定したばかりということもあり、他のユーロ圏から心証の良くないロシアマネーの受け入れには慎重になっています。


ロシア


案外、ロシアに資金が戻るかも知れません。
ソ連崩壊・ロシア成立からすでに20年以上が過ぎ、現在のEUヨーロッパ諸国に比べれば自国ロシアの方が安全だ、という考えが出てきてもおかしくはありません。


はてさて、金融立国オフショア・キプロスはこのまま終わってしまうのでしょうか?
キプロスは、地理的には北にトルコ、東に中東、南にエジプト、アフリカ諸国と今後成長が期待できる国々に囲まれているというアドバンテージがあります。これを上手く活用出来れば、十分復活の見込みはあるとみています。
例えば、これらの国々の株式や債券を取引できるオフショア証券会社を作ることが出来れば非常に面白いのではないでしょうか?
ルクセンブルクのTD Direct Investing International(旧Internaxx[インタナクス]証券)が日本居住者の新規口座開設を取りやめてしまったので、これに代わるオフショア証券業者がキプロスに設立されれば、日本人クライアントにとっても朗報になると思うのですが…。